第5回 MASTER KEYプロジェクト定例会報告
2021年7月5日(月)17時~18時30分 ZOOM会議にてRCJと国立がん研究センターとの第5回定例会が行われました。以下概要となります。
1. MASTER KEY レジストリ.研究進捗状況(登録、全体研究状況等 2017年5月〜2021年6月)
- 固形がん1769例 血液がん174例
- 進捗状況 非常に順調。北海道大学、九州大学の登録数も増えてきている。
- 副試験登録を増やすためにさらに参加企業に呼び掛けている
- 参加企業は11社で、今後1社増える予定。 新規参加企業説明会でRCJからも後押しをお願いする。
- 今後の参加施設については、中京、中国、四国などまだ網羅できていない地域を優先したい
2. MASTER KEY全体進捗 トピックス
- レジストリデータ薬事申請への活用
MKPは副試験だけでなく、比較対照データとして患者レジストリデータを薬事申請に活用することが目的になっている。大規模なRCTが難しい希少がんでは、治験データを補完するために、レジストリデータが使用できるので、単群試験の奏効割合を同じような背景の方々と比べてよいとされるとレジストリデータの活用がひろがる。レジストリ―データを使用することはPMDAも新たな試み。対照データとして利用を検討中の企業が1社ある。今後実績を積み重ねることで薬事申請へのレジストリデータ活用が進むと期待している。 - 副試験
希少がんの患者さんへの治療機会の提供が8パーセント、これを多くするために参加企業にさらに副試験の登録を呼び掛けている。
全体をみていれば、RWDとして使用できる患者レジストリデータだけでも貢献できるので、自分だけでなく希少がんの患者さんのためにMKPに参加していただきたい。バスケット試験と特定のがん腫を対象にしたものがある。
詳細はこちらをご覧ください。 https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/masterkeyproject/substudy/index.html
3. 副試験状況
- 登録可能は現在6試験
- HPに最新情報は掲載されている。 「登録中」 が登録可能な試験であり、実施施設の記載もある
- ALKのアレクチニブ(2018年から実施)はまだ登録中である。血液癌NKT細胞リンパ腫、小児腫瘍も登録中。胞巣状軟部肉腫は、非常にまれだが、予想以上に関心が高く、早期に登録終了となった。
- MKP参加以外施設が主導する医師主導治験もあり、MKPの施設が参加していれば副試験リストに入れている。
- FGFR遺伝子の医師主導治験はMKP参加施設がすべて入る本格的な試験となる
4. 参加企業との協業について
今回参加企業にアンケートを行い、MKP開始から4年の振り返り、メリット、課題/要望をきいた。結果としては、概ね好意的であり、希少がんの治療開発に向け協業を続けたいとのことであった。レジストリデータそのものを薬事利活用し臨床試験を行わず開発したいという要望、企業と研究所との連携や、アジア展開についても意見をもらった。
レジストリ登録に期待するがん種について要望があったので、患者さん側に伝える説明会なども開催したい。
全ゲノムシークエンスとMKPの関係は、今のところ全ゲノムシークエンスは病態解明が先行しており、今後治験に結び付くような段階になれば、MKPも協力できる。全ゲノム解析について患者に還元できる日も来るだろう。
MKP施設については、地域格差をうめるべく、施設の追加を目指している。
5.MASTER KEY ASIA(ATLAS事業)
ATLASプロジェクトの基盤を活用してアジアにMKPを広げる。 韓国、台湾、シンガポールとはこれまでも国際共同試験を行ってきたが、このネットワークをASEAN諸国に広げるとともに実際に臨床試験を行っていく。まずは、タイ、マレーシア、フィリピンのレジストリ部分を先行させ、副試験をアジア共同試験にしていく。アジアはゲノム医療が実装されていない。日本と違ってパネル検査が保険収載されていないので、血液を採ってもらい、がんセンターで解析して、情報を患者さんに報告するという仕組みを作ろうとしている。もちろん、データとしては国別の区別が分かるようにする。国際共同試験を行う場合には、薬剤は無料提供となるため、国際共同治験ではより登録患者が増えて、スムーズに進むメリットがある。
外国企業、ベンチャー企業も、アジアでの開発戦略とあわせて参加可能。
RCJからの問い合わせへの返答
1.RCJからの遺伝子パネル検査要望書について
NCC:
- 臨床側としても患者側の意見に賛同する。NGS(遺伝子パネル検査)をどんどん実施したいというのが本音。一方、保険点数のつけ方は複雑。55万6000円はエキスパートパネル費用が入っており、これでも赤字という施設もある。臨床医としても患者ニーズと経営の観点で葛藤があるが、この点はC-CATのWGほか、様々な場所で議論されている。アメリカでは患者が希望すれば自らが加入している保険の範囲内でいくらでも検査できるが、もちろんトータルの検査費用は日本より高額になるケースが多い。日本では国民皆保険の下で国がカバーすることになっているために一定の制約がある。
- あまり保険点数が下がってしまうと企業のインセンティブが下がり、日本で開発しないという状況になりかねない。ほどよいバランスは考えるべきで、政府も保険財政と患者メリットのバランスで決定していると思われる。
- 基本的には、標準的な治療がない希少がん患者にはパネル検査を最初から実施することができる。検査実施時点で保険診療上の支払が約束されていない点が問題である。ふつうはサービスを受けるときにお金を払うが、パネル検査では結果が出た際に患者が説明をきいて初めて費用を支払うという仕組みになっており、その点が問題。保険適用にはなっているが、この問題があり検査実施が躊躇されるケースもある。乳がん、肺がんなどの5大がんでは初回治療の段階でパネル検査を実施できないが、希少がんでは標準治療がないため最初からパネル検査を実施できる。
治療によって遺伝子異常のプロファイルが変化するので、繰り返し検査を行いたい要望は当然。腫瘍組織は3年以上が経過すると細胞がゲノム検査に適さない場合もあるので、リキッドによる検査も有力な選択肢となる。繰り返し検査を行う点については、患者ニーズと保険財政の折り合いをつけるための議論が必要だ。 - 複数回検査の要望は学会(がん3学会、さらに日本臨床腫瘍学会から)方からも内保連 https://www.naihoren.jp/ に提出している。
2.遺伝子パネル検査のレジストリデータ解析・AIによるビッグデータ解析について
NCC:
- AIは画像、病理診断で進んでいる。臨床データが標準化されていないため、紐づけることができず、AI化ができていない。それをいかに標準化するかが課題。遺伝子そのものの膨大なビッグデータ解析も行われている。
- ビッグデータ解析といっても、診断、治療、結果が揃って解析してはじめて患者に意味のあるデータを還元できる。MKPは網羅性の高いデータベースで診断、治療、レスポンスまで収集している
- リアルワールドデータと希少がんの関係については、質の高いリアルワールドデータと低いリアルワールドデータ(カルテデータ走り書きなど)があり、標準化・構造化されていないとAIでも解析できない。質の高いデータベースを作るためには、入力の手間がかかる。MKPではようやく2000例を収集したところだが、一方で何十万人のカルテデータを標準化するという試みがアメリカで進んでいる。電子カルテを読み込むときに自動で読み込めなかった場合はキューレーターが確認して変換している。日本でも電子カルテの情報を標準化していく作業が始まっているが、日本語の特異性があり、自然言語処理はまだ探索的な状況。当面はMKPのデータをきちんととっていく。
RCJ:
希少がんの種類ごとにどういう遺伝子変異があるのかレジストリ内容について公開されるのか。2000例近く遺伝子解析進んだ。actionableな遺伝子異常のデータを教えていただくことは可能か?
NCC:
半年に一回集計しており、企業にはレポートを提供している。集計データに関する論文も1件出しているが、今後も定期的に論文化して公表していく。この希少がんに対して、遺伝子異常があったというだけでは、actionableとは言えず、治療薬が効いたというとこまで示せないとactionableでない。
以上です。